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函館家庭裁判所 昭和52年(少)254号 決定

少年 S・Y(昭三一・六・一三生)

主文

1  少年を昭和五三年一二月六日まで中等少年院に送致する。

2  当裁判所が昭和五〇年八月二六日なした少年を函館保護観察所の保護観察に付する旨の処分はこれを取消す。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五〇年八月二六日当裁判所において、窃盗保護事件により、函館保護観察所の保護観察に付され、以来、保護観察中の者であるが、その後も行状は改まらず、定職に就かず、健全な生活意欲を失い、飲酒に耽り、酒代のため多額の借金を繰り返し、保護者の注意をきかず、却つて、これに乱暴するなど、このまま放置すれば、将来罪を犯す虞れがあるものである。

(適用法条)

少年法三条一項三号イ、ニ

(処遇の理由)

1  少年は、前記のとおり昭和五〇年八月二六日当裁判所において保護観察に付され、保護者はもとより、保護観察官、保護司によるたび重なる指導を受けたにも拘らず、現在まで、改善の意欲はみられず、頻回転職して定職に就かず、飲酒に耽り、勤務先の名前を無断で使つて飲酒することも多く、酒代のため多額の借金を重ね、更に、この間、昭和五〇年九月二三日飲酒の上無免許で自動車を運転し、昭和五一年五月二八日泥酔の上無免許で自動車を運転して物損事故を起こして逃走し、このため罰金に処せられ、同年一〇月二四日動務先のスナックで客のハンドバックから現金二万円等を窃取して同年一二月二六日函館区検察庁において不起訴処分となり、昭和五二年一月二六日姉の家の手提金庫から現金等を窃取し、同年三月三〇日飲酒の上自宅で来客の背広上衣ポケットから現金八、〇〇〇円余を窃取する等したため、保護観察所の所長から犯罪者予防更生法四二条一項により虞犯通告されたものである。

2  少年の知能は、検査結果によると、I・Qは六六であるが、成長過程で学習によつて獲得されるべき能力が劣り資質の未開発のため知能指数が低いものであつて、限界級知能に属する。少年の性格は、自己顕示性が強く、自己中心的であり、周囲の状況をよく考えずに自分の欲求を直接的に充足させようとするなど社会性は極めて未熟である。少年は、状況に対する適切な判断力に乏しいため、行動に出ると失敗、挫折することが多く、この場合、暗い気分に陥り、自棄的になつたりする。また、失敗の原因に対する内省に乏しいため、責任を外に転嫁しようとし、他人の批判を素直に受入れようとしない。少年の上述の行動特性は、少年の能力の低さと、母子家庭でもあり、家庭内での仕付け及び自立への指導が十分なされなかつたことが大きな要因と考えられる。少年は、昭和四七年三月中学卒業後まもなくの頃から飲酒を始め、現在では飲酒癖がかなり固定化している。少年の飲酒は、前記の自己顕示性の強さからくる少年の社会指向がその社会性の未熟さ等のため挫折することからくる不満の解消及び失敗の原因を飲酒に転嫁しようとするところに発しているものである。

少年の窃盗、無免許運転等の非行は、酒代欲しさ、あるいは、酒の上でのものであつて、飲酒癖の除去なくしては、将来、罪を犯す虞れがあるものと認めざるをえない。

3  少年の現状は、在宅保護の限界を超えるものであり、この際、少年を昭和五三年一二月六日まで中等少年院に送致して規律ある生活環境のもとで、飲酒癖の除去をはかるとともに、基礎学力及び社会性を身につけさせ、健全な生活意欲をかん養するのが相当であると考える。

よつて、主文第一項につき、犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三号を、主文第二項につき、少年法二七条二項(前後の裁判所は同一で、しかも前処分の裁判官は新たな処分の裁判官の前任者であるから意見聴取はしない。)をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 清水篤)

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